ノートルダム再開:多くの支援を結集して

こちらのブログでは、海外の事例をゆるく紹介していく予定です。まずは、昨年末のパリでの出来事から。

==ノートルダム大聖堂Cathédrale Notre-Dame de Paris:多くの支援と知恵を結集して再開==

 

ゴシック建築の代表的な建物として世界遺産(「パリのセーヌ河岸)の構成資産)であり、フランスパリの顔ともいえるノートルダム大聖堂が焼け落ちたのは、20194月。尖塔が倒れ、屋根が焼け落ち、に包まれた大聖堂の映像を記憶している人も多いでしょう。ただ、身廊内への延焼は食い止められ、特徴的なバラ窓も3つとも生き残りました。また、寺院内部の文化財や美術品は、消防士により運び出されるなどして焼失を免れ、巨大なパイプオルガンも無事でした。当時、大聖堂では改修工事が行われており、これが原因である可能性が高いと報道されていましたが、結局、明確な原因特定には至っていません。

 

この悲劇の直後から、まさに、フランスの総力を結集した修復体制が整えられ、マクロン大統領直々に世界的な募金活動が始まります。同年7月、再建のための国の募金を創設する法律を制定、個人寄付の税制緩和措置とともに、大聖堂の保存と修復作業の企画・実施する行政的公施設法人(établissement public administratif)を設けるなど、再建に向けた仕組みが整いました。

 

これまでの改修工事においてもそうでしたが、今回の再建に向けて必要とされた多額の費用は約7億ユーロ(160円換算で約1120億円)に対し、名だたる大富豪や企業が我先に募金を表明、150カ国以上、34万人・団体から再建作業に寄せられた募金総額は、約84600万ユーロ(約1350億円)にのぼったそうです。大聖堂の存在価値の大きさを物語っているように思いますが、これで必要な経費はすべて賄えることとなりました。

 

寄付者には、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンのベルナール・アルノー(2億ユーロ)、グッチやサンローランを保有するケリングの会長・CEOのフランソワ・ピノー(1億ユーロ)、ロレアルグループ、BNPパリバ、ソシエテ・ジェネラルなどそうそうたるメンバーが名を連ねるとともに、米国からの寄付だけでも約7000万ドル(約105億円)が集まったとされています。

 

公益に資する寄付を促進するためのインセンティブ税制はいずれの国にもあります。フランスでは、個人が公益目的の団体に対して寄付をする場合、課税所得の20%以内において、寄付金の66%の税額控除が適用されます(最大5年まで繰り越し可能)。なお、今回の大聖堂については、前述の特別な法律により、この個人寄付の控除額は、1000 ユーロまでという上限をつけて 75%まで引き上げられるとともに、年間課税所得の上限規定は適用されないことになったそうです。ちなみに、不動産富裕税を支払う富裕層であれば、年間5万ユーロを上限に、寄付額の75%を不動産富裕税から控除可能、企業の場合は、年間売上高の0.5%を上限に寄付金額の60%を税額控除できるそうです。

 

寄付は基本的に利他的行為ですが、特に、大金持ちの寄付に対しては、純粋な社会貢献と称賛するのか、税金逃れあるいは売名行為などと批判するのか、さまざまな角度から議論があるでしょう。実際に、今回も批判にさらされた大口寄付者及び企業は、税額控除を求めないことを表明しています。

 

もう一つ重要なことは、the Établissement Public Rebâtir Notre Dame de Paris の設置でしょう(以下「法人」と呼んでおきます)。大聖堂は国有財産ですが、募金で得られた巨額の資金を使って、限られた時間内で多種多様な作業を効率的に行うために、この法人は設置されました。すべての資金の受け皿となり、その流れを、透明性をもって統括し、重複する責任や権限を組織横断的に一括管理して修復作業の効率性を高めるという極めて大きな役割を果たしています。

 

さて、大幅に残った資金は、今後どうなるのでしょうか。ミュージアムを創設するという考えもあるとのことですが、いずれにせよ、法律の目的に沿って、大聖堂の修復や維持管理に充当されることには変わりありません。

 

素晴らしい大聖堂ですが、維持するにも改修するにも大きな経費がかかります。現時点で大聖堂入場は無料で、誰もがこのフランスの宝石を見ることができますが、宝物館など特定のエリアは有料です。再開後の訪問客は、年間1200万~1500万人と予想され、火災前よりも12割程度増加すると見込まれています。

 

https://www.lvmh.com/en/commitment-in-action/for-philanthropy/art-culture-and-solidarity

 

https://www.ccomptes.fr/sites/default/files/2023-10/202000930-summary-Notre-Dame.pdf

 

https://rebatirnotredamedeparis.fr/en/corporate

https://revivre-notre-dame.fr/en/donations-actions-for-notre-dame/make-a-donation/